細川家史料調査

四十九年度出張として、熊本大学附属図書館に寄託されている財団法人永青文庫所蔵の細川家史料の調査を行なった。「大日本近世史料 細川家史料」は一〜四をもって豊前時代を終り、次回刊行の五以降は肥後時代にはいることになる。これにともなって編纂に必要な参考史料等も大幅に変るので、それらの調査収集と、寛永期を中心とする藩政史料全般の補充調査が、今回出張の目的であった。
 細川家が肥後に入国後の事情を直接に伝えるものは「日帳」「覚帳」「奉書」などの、当時の帳簿類である。しかしこれらの藩庁記録は完全な形では残存していない。そこで、細川家から幕府要路者や他の大名旗本諸家に送られた書状案を収録した「公儀御書案文」、忠利が奉行衆に与えた諸達類を収録した「御国御書案文」等が重要な参考史料となろう。
 なお細川家史料中には、直接同家に関係する史料ではないが、他家史料の写本類が若千蔵されている。保存状態がとりわけ悪かったために開披できなかったり、虫損が甚だしいために判読不能の文書も多いが、筆写年代は近世初期を下らぬものと判定されるものが多い。その中には織田信長書状写(木下秀吉宛・蜂須賀彦右衛門宛)、豊臣秀吉勅答案(菊亭右大臣宛)、豊臣秀吉刀狩令写(羽柴柳川侍従宛)なども含まれている。細川家史料の編纂には直接関係はないが、これらの史料も併せて調査した。今回調査の結果借用した史料及び写真撮影した史料は左の通りである。

『東京大学史料編纂所報』第10号